セッション 05

瞊暪切り替え

 05
 
 それは豚が匕き裂かれた時の断末魔のようであった。
 長く残響する死の叫びが、突劂闇の底から突き䞊げおきたのだ。
 階䞋ぞず向かっおいたむ・ゞュンスは、逌食者の男を肩に担いだたた、ぎくりず足を止める。堎の空気が停止した。(゚コヌ)セッションの党員がその音を聞いたはずだ。薄氷の䞊で立ちすくむように、誰も動き出せない。ゞュンスはざわざわず胞隒ぎを芚えおいた。あんな獣のような叫びは聞いたこずがない。
「今のは  」
 ラむアスは怯え始めおいた。
「今の、聞こえただろ あれは、なんだ」
 ゞュンスはすぐさた通信機を掎んだ。
「シス。䜕か様子が倉だ。シス――ポランスキヌ、至急応答を」
 ざらざらずしたノむズ音が返っおくるだけだった。
 ゞュンスはチヌムメむトに目をやる。担架の近くで譊戒しおいた゚コヌは玠早く銖を振っおいた。その挙動がせっぱ詰たった様子だったのでいっそう䞍安感が増す。背䞭に嫌な汗が吹き出お、わけもわからず錓動が早たっおくる。
 青ざめた顔のラむアスに構う䜙裕もなく、圌は呌びかけ続けた。
「こちら゚コヌ。誰でもいい、応答しおくれないか、こちら゚コヌ」
 応えがあった。
〈  アル   通信状 が、悪い  〉
 雑音が混じっおいおずおも聞き取りにくかったが、かろうじおりィリアム・ハントず繋がったらしい。
〈  繰り えす  、通信䞍胜  〉
 ゞュンスは受信機を耳に抌し぀け、ハントの蚀わんずするこずを必死で聞きずろうずした。
 本郚ずの通信が切れおいる 䞀䜓䜕が起こっおいるのか
 状況に動揺しおいるず、なおもハントが通信を寄越しおくる。圌は䜕かを䌝えたがっおいる。立堎䞊、セッションに呜什を䞋しおいるのは明らかだ。
〈  せよ  ゚コヌ ぀、せよ  〉
「アルファ、指瀺が聞き取れない。アルファ、指瀺を求む」
〈  な、はや  ろ――〉党くわからない。耳鳎りのような高呚波音ずノむズがハントの声を消し去っおいる。しかし、どこかで耳に芚えのある調子だったので思わずゞュンスは聞き返す。
「え、ハント 今の、なんですっお」
 むダホンから断続的な怒鳎り声が響いた。
〈ず  ずず――逃げろ――銬鹿野郎――〉
 
 キィィィィィァァァ――
 
 回線がぶ぀りず途絶えた。
 そしおあの、おぞたしい叫び。死者の眠りさえさたたげるような、恐怖の蜟き。血が凍り぀く思いがした。隣のラむアスなどは驚きのあたりびくりず身䜓を痙攣させおいた。
 ゞュンスは小銃の安党装眮を倖し、背埌を振り返る。チヌムのうち二人は担架を運び、ゞュンスは逌食者を抱え、残りの四名は巊右に分かれお守りを固めおいる。゚コヌず目があった。恐怖のあたり発䜜でも起こしそうな目぀きだ。あれほどうろたえおいる゚コヌをゞュンスは芋たこずがない。
 逃げる どうやっお 戻るか 進むか 逌食者が二人もいる――瞬く間に思考が抌し寄せるが、たるで刀断が぀かなかった。実戊に出るのはこれで二回目になる。初戊は半日ずちょっず前だ。それでも゚コヌのリヌダヌである圌はチヌムの進退を決断しなければならない。
「、䜕か芋えないか なんでもいい、党郚芋せるんだ」
 システムによっお芖界が研ぎ柄たされる。――なんであれ、逃げた先で恐ろしいなにかず鉢合わせするのは絶察に避けたい。
 北の壁の向こう偎、やや䞋方の䜍眮に赀い存圚がいく぀かある。距離は䞉〇〇メヌトル。その赀いマヌクがたった今、䞀぀消えた。おそらく(ゎルフ)が始末したのだ。恐怖の発信元はこい぀らじゃない。
「ゞュンス、これは  」
 チヌムメむトが呻く声がした。
 䞋にいた。圌らの真䞋に。玫色の巚倧な䜕かが右に巊に動きながらぐんぐん迫っおいる。システムが衚瀺したのは握り぀ぶしたスラむムのような圢の䜕かだった。だが、いざ察面すれば、そんなものではすたされないずいうこずぱコヌの党員が予想できた。
 それのやっお来る方角がわかる。どう芋おも匕き返すべきだ。
 ず、
「――!? 埅お」
 突然身䜓が匟かれる。ラむアスが圌を抌し退けお駆けだしたのだ。
「そっちに行っおは駄目だ」
 ゞュンスは倧声で怒鳎り぀け、党速力で远いかけた。
「よせ、远うな」
 ゚コヌの声がアラヌトのように脳に響く。倱(・)敗(・)し(・)た(・)。ゞュンスにもそれはわかっおいた。
 しかし、身䜓は動いおしたった。
 たかだか数秒の远走劇がチヌムずの間に倧きな距離ができる。ゞュンスはラむアスの背䞭めがけお飛び぀き、䞀緒になっお床に倒れた。すぐさた盞手を起こした。
「䜕故離れたんです」
 ――すぐに仲間の元ぞ戻らないず
 ゞュンスは盞手の顔をのぞき蟌み、ぎょっずした。ラむアスは恐慌状態に陥っおおり、「来る、来る」ずひたすらぶ぀ぶ぀蚀っおいた。
 地揺れが起こる。
 再びバランスを厩しお膝を぀いた。ラむアスなどは背䞭を䞞めお床にしがみ぀いおいる。ゞュンスがずっさに仲間の方を振り返るず、チヌムメむトがこちらを远いかけおいる姿が目に入った。
 圌らが芋えたのはその䞀瞬だけだ。
 ばあん、ず目の前が爆発する。砎壊の衝撃波をたずもに受けたゞュンスは埌方にぶっ倒れた。砎砕したコンクリヌトが身䜓に降り泚いでくる。突然のこずだったので、暪から倧砲が撃ち蟌たれたのだず圌は思った。
暗い――䜕も芋えない
 床の䞊で必死にもがく。混乱しながらもなんずか䞊䜓を起こした。粉塵がもうもうずする䞭、ガスマスクのレンズを拭っお目を凝らす。ラむアスは圌の䞋で倒れおいる。ゞュンスが庇ったため怪我は芋圓たらないが、苊しそうにうめいおいた。その背䞭から芖線を移す――ゞュンスは芖力を倱ったわけではなかった。濃い煙ず芆いかぶさる圱のせいで芖界が悪くなったのだ。
 吹き抜けから通路に飛び蟌んだのは、ずんでもなく巚倧な化け物だった。
 はある――立ち䞊がれば党長はさらにあるはずだ。前方に突出したあぎずは狗のようで、䌞びた癜髪が身䜓にからみ぀いおいる。手足は现長く蜘蛛の足を連想させたが、倪さは人間の胎䜓ほどもあった。身䜓が痩せおいるくせに、氎をたらふく飲んだように腹が膚れおいるのが、ゞュンスの目には異様に映った。そんなものが狭い通路で這い぀くばっおいるのだ。
 身䜓の䞭心が歪な玫色になっおいる。が゚ラヌを起こしながらも捉えた名残りだった。
 ゞュンスは半分起き䞊がった栌奜のたた固たっおいた。
 これは、なんだ これず、戊(・)う(・)の(・)か(・)
 
 クルァ――
 
 目の前の巚躯が、しゃくりあげたような奇声を発する。その背埌に(゚コヌ)がいるはずだが、向こう偎の倩井が厩れおいるため、圌らの姿が芋えなかった。
 化け物の口内から絶叫がほずばしる。びりびりず錓膜が振動した。
 こんなもの、どうしようもない――戊意喪倱ずいう蚀葉が盞応しかった。
 ゞュンスは無意識に掎んでいたラむアスの腕を匕いお、その堎から逃げようずした。逃げられるものなのかどうか吟味しおいる䜙裕はなかった。本胜に埓っお距離をずろうずしおいたにすぎない。
 しかし、ラむアスは頭を抱えおうずくたっおいる。うなり声をもらし、その堎から動けなくなっおいる。
 盞手の身䜓に倉化が起こる。ラむアスの銖が䞊から匕き抜かれるように䌞びお、ねじ曲がり、背䞭偎にいるゞュンスにぐるりず顔を向けた。ラむアスの顔は壮絶な衚情をしおいた。目を芋開いお驚いおいるようでもあり、口を開けお痛みで恐怖に叫んでいるようでもあった。それから銖の付け根が極端に盛り䞊がっおいき、ラむアスの頭を抌しのけお、怪物の顔が姿を珟す。どういうわけか、は沈黙しおいた。
 芋おいお気が狂いそうだった。恐ろしい化け物が近づいおいる。救助したダ(・)ン(・)ピ(・)ヌ(・)ル(・)が目の前で獣に戻っおいく。
 ゞュンスは呌吞を匕き぀らせながら、ゆっくりず埌退する。倢の䞭にいるように、足が思うように動かなかった。
 巚倧な方の化け物が飛びかかっおくる。けたたたしい叫びずずもに、鋭い爪を突き出しおきた。ゞュンスはその堎でよろめく。床が激しく揺れる。烈颚を感じた。ただ感芚がある。ただ生きおいる。
 化け物の凶噚はゞュンスの身䜓たで届かなかった。
 巚腕は血逓症を発症したラむアスの身䜓を断ち切っおいる。火花を散らしながら床を匕っかき、無造䜜にラむアスの䞋半身を虚空ぞず持っおいく。
 それ以䞊を芋届けるこずはできない。
 ゞュンスは化け物から背を向け駆け出した。
 匷烈な砎壊音が背埌で立お続けに起こった。あの腕でモヌルの壁や床を叩き壊しながら远いかけおいるのだ。ゞュンスの方が俊敏だったためそれらは未遂に終わったが、化け物は明らかに圌をラむアスず同じ目に遭わせたがっおいる。
 ゞュンスは死物狂いで走り、資材を飛び越え、たた疟走する。
 黒い颚が暪から迫る。
 
 ✣
 
 ――ばんっ、ず音が鳎った。アグニェシュカ・ポランスキヌが拳でデスクを叩き぀けた音だった。隣にいるミナ・リュヌドベリが、わずかに身を竊めおいたのが芖界の隅に映る。しかしそれもすぐに消える。ポランスキヌは䞡目を閉じお荒れた呌吞を敎える。䜜戊宀のうろたえた雑音だけが残される。
 本郚が党セッションず連絡が取れなくなり、すでに十五分が経っおいた。始めに途絶えたのはセッションだ。次に、最埌に。
 十五分だ――ポランスキヌは思った。状況は䞀分で倧きく倉わっおしたう。それどころか、䞀瞬のうちに、人が死ぬ。
「どうしおも繋がらない。異垞事態だわ」
 リュヌドベリはモニタヌに怒涛のように流れる文字列を読みながら「無線機の故障か  通信障害が起こっおる。かなり匷力なや぀。もネットワヌクから締め出されおる。ずいうより――」圌女は神経質そうにデスクをこ぀こ぀ずノックした。「  ぶっ壊れおるみたい」
 䜜戊宀の倧画面にはアルファ――ステむカヌの䞡県が捉えた最埌の映像がある。むヌラ・バックりェルの身䜓が異垞倉化しおいく途䞭のものだ。映像はその埌ブラックアりトしおいる。䜜戊宀にいる人間たちには珟堎で䜕が起こったかわからなかったものの、察象が血逓症を匕き起こしたのは間違いなかった――しかし、ただ単に発症しただけで、党セッションず連絡が途絶え、その䞊システムが故障するなど過去に䟋がない。
 恐れおいたこずが起こっおしたった。
 ポランスキヌは震える肩で息を吐き出した。それから目を開く。圌女は付近にいた補䜐に蚀い぀け、荷物を持っおこさせた。黒いボストンバッグのゞッパヌを開けお、物をかき集めたポランスキヌは぀か぀かず䜜戊宀の出口ぞず向かう。
「――シス、どこぞ」
 慌おお立ち䞊がるミナ・リュヌドベリに、圌女は「〈聖域〉を起こす」ず蚀った。䜜戊宀の倖に出おもリュヌドベリは远いかける。
 振り向きもせずに圌女は廊䞋を歩いおいく。
「合衆囜が取り決めた最終フェヌズたで、状況を進めるわけにはいかない。そうでなくおも党員が窮地に陥っおいる事態よ。じっずしおいられないわ」
「それはわかっおる。起こすっお、どうやっお  」
 盞手はポランスキヌが携えおいる物を芋お足を止めた。右手に銀の杭ず聖曞、巊手に斧ず聖油、手銖に巻き付けたロザリオから倧ぶりな十字架が揺れおいる。
「でも、」
 リュヌドベリは地䞋通路で立ち尜くした。ポランスキヌの決然ずした顔の前ではそれ以䞊の蚀葉が思い぀かなかった。
 ポランスキヌは振り向いお、
「どんな手を䜿っおも、吞血鬌を目芚めさせる。〈プロメテりス〉によっお犠牲を出すなんお蚱されない。ミナ・リュヌドベリ、あなたはセッションずの通信を埩旧させなさい。シュヌタヌ達は必ず連絡を取っおくるわ」
 二床ずあんなこずは起こさせない。胞の内でそう呟いお、圌女はブラッディ・プヌルぞず急いだ。
 
 
 䜓内電子チップでセキュリティ扉を解錠し、ポランスキヌはその郚屋に入った。半日前に来た時ず同様、暗い照明の䞭、ポンプが䞀定のリズムで皌働しおいる。圌女は手近の䜜業台に近寄り聖曞を静かに眮いた。
 圌女は深呌吞する。十字架を唇に持っおいき、觊れさせた。手斧の柄にロザリオの数珠をき぀く巻き぀け、匷く握りしめる。
 ヒン、ず高呚波音が鳎った。瞬時に黒い刃が熱を垯びる。衚面の塵や埃が高熱によっお燃え萜ちおいた。
 こんな颚に吞血鬌ず察峙するのは初めおだ。数癟幎前に存圚しおいた吞血鬌(ノァンパむア)ハンタヌなら、盞手が䜕であるかを知った䞊で、喜んで事を成しただろう。だがポランスキヌは圌らずは違った。
 脳裏にサンクチュアリの姿が浮かんだ。圌女は座り蟌み、ポランスキヌの膝の䞊で頬杖を぀き、くすくすず笑っおいる。ポランスキヌの前では少し子䟛っぜい仕草をする圌女だった。他の人間にはたるで芋せない顔。
 ポランスキヌは、杭を持った右手で額ず肩に觊れる。
「  父ず子ず粟霊の埡名(みな)によっお」
 本来なら、圌女盞手に神に祈っおいる暇などない。それでもよかった。
「アヌメン」
 ――起きお、サンク。
 さもなくば、私があなたを殺す。
 ポランスキヌは銀の杭ず手斧を固く握り、プヌルぞず歩み寄る。现工が圫り蟌たれた真っ癜な瞁(ぞり)ず距離が瞮たっおいく。
 吞血鬌は眠っおいるが、滅んだわけではない。しかし、自身に真の危機が迫るのなら、圌女ずお目を芚たさざるを埗ないはずだ。ポランスキヌはそう螏んでいた。
 最悪の堎合はこうしなければならないず、最埌にここぞ来た時に密かに思いを固めた。ステむカヌは䞀぀も圌女の考えに気が付かなかったはずだ。  もし眠ったたただったら その時の芚悟はできおいる。
 逆にポランスキヌが吞血鬌に殺されるこずも充分考えられた。ずいうより、こちらの可胜性のほうがずっず高い。戊いを近くで芋おいおもなお、圌女の力は蚈り知れなかった。しかし、ど(・)ん(・)な(・)手(・)を(・)䜿(・)っ(・)お(・)も(・)、目芚めさせる。その意志に倉わりはない。あの時のように、郚隊が壊滅するくらいなら――
 圌女は玠早く瞁を乗り越えた。手斧ず銀杭を同方角から同時に振りかぶる――が、ポランスキヌはぎたり、ず動きを止めた。圌女は呆然ずした。
 血溜たりには誰もいなかった。
「サンクチュアリ  」
 真玅の氎面(みなも)がゆらゆらず揺らいでいる。その䞊で、月䞋銙(チュヌベロヌズ)の癜い花がゆっくりず回っおいた。
 
 ✣
 
 (ブラボヌ)セッションを乗せた茞送機が行き先䞍明のたた倧地に着陞したが、埌郚扉は䞀向に開かなかった。ボタン匏の手動操䜜盀を䜿おうにも金網付きで鍵がかけられおいるし、埌ろ手に拘束されおいおは手が出せない。぀いでに蚀うず、操瞊宀の前も頑䞈な網が匵られおいる。ここは空を飛べる檻だった。もう䞉十分も機内にいる。
「おい、さっさずク(・)゜(・)ゲヌトを開けろよ」 
 キャップが折りたたみ座怅子を二床蹎り぀け、声を荒らげる。それを芋たブルヌノ・ヒギンズはため息を぀いた。や぀は根っからのごろ぀きだが、いただ䞡手をプラスチック手錠で拘束されおいるため、間抜けっぜく芋える。
 そのうちゞェリヌヘッドも䞀緒になっお、貚物宀の壁に䜓圓たりしはじめ、機内は途端に隒々しくなった。
 熊男が怪蚝そうにヒギンズに目をやる。
「䜕かあったのか おっきり着陞した途端に扉が空いお、シスが䞀歩も動かず埅ち構えおるず思ったのに」
 そういうポヌズは、どこぞの囜では仁王立ちず蚀うらしい。
 ヒギンズは肩をすくめた。
「ビッグシス(おねヌさた)は俺たちをネグレクト䞭だ」
「たあ、実際の所、あれはガチギレだったもんな」
 䞡手䞡足を拘束されおいるトムが、芋虫の芁領で床をのたうっお、ヒギンズの足元たでやっおきた。
「だがここはアメリカずは限らないだろう」
「いいや間違いない」ず、熊男。「窓から芋た景色は確かに北米だった」
 ヒギンズは頷いた。
「それに飛んだ方角ずだいたいの飛行時間から考えおもここはアメリカだ」
 トムは「あっそ」ず蚀った。誰かがこい぀を立たせお怅子に座らせおやるべきだったのだが、仲間内の密かなルヌルでは、よっぜどのこずがない限り、機嫌の悪いトムは攟っお眮かれるのが垞だった。
 そんなトムはむくりず䜓を起こし、もぞもぞず動いお、どうにかこうにか怅子に寄りかかる。
「退屈だぜ」
 隒いでいたキャップずゞェリヌヘッドは䞀切の行動が無駄だずわかり諊めたらしい。キャップが最埌にもう䞀蹎り寄越しお「畜生」ず吐き捚おおいた。二人は手持ち無沙汰にうろうろ歩き回り、たた座り蟌んだ。
 それを芋たヒギンズが倧声で忠告する。
「䜓力の無駄䜿いはやめおおけ」
『くそくらえだ』二人たずめお返っおきた。
「どうする バンビさんよ」トムが頭を怅子にもたげお圌を芋䞊げる。
「埅おばいい」
「埅぀っおどれくらいだ」
「俺が知るか」ヒギンズは憮然ず答える。
 ハッず熊男が笑った。「俺は知っおる――人類滅亡の日たで、さ」
「笑えねヌんだよ」ずトムは熊男を睚み぀けた。「俺より先に匟が死ぬなんお耐えられるか」
「でも䞀番起こりそうだ。なんたっお、俺達は  」
「その話は聞きたくない」ヒギンズが熊男のセリフを遮った。疲れたように銖を振る。「今は気が滅入る」
「ああ、腹が枛った」ゞェリヌヘッドが仰向けになり、倩井に向かっお蚎える。それを皮切りに、党員が空腹を思い出した。
 誰も䜕も蚀わなくなった。
 それからどれくらい経っただろうか。
 突然、甲高い音を立おお貚物扉が䞊䞋に分かれおいく。
 (ブラボヌ)セッションの䞀同は埌郚に泚目した。寝おいた者はさっず起き䞊がり、う぀むいおいた者は顔を䞊げる。埐々に開く扉の向こうから、光が眩しく差し蟌んでいる。ヒギンズは目を现めた。今は倜の時間だ。扉が開くに぀れ、車䞡が茞送機の近くに止たっおいるのだず圌は気付いた。
 がこり、ずスロヌプ郚分が地面に着く。
 投光の角床のせいで、出口近くに斜圱ができおいる。その暗がりから誰かが珟れた。猫のように、静かな足取りで。
 盞手の姿を芋たヒギンズはあっけにずられた。
「たさか、あんたかよ――ヘ(・)ル(・)キ(・)ャ(・)ッ(・)ト(・)が迎えに来たぞ」
 
 

 


【2019/10/19 曎新】

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