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 Conflict 03  結局のところその日彼らは街から出られずモ丨テルで一夜を過ごさなければならなかと言てもエリフはろくに口を聞いてくれないのでステイカ丨が勝手にそう決めただけなのだが天候が崩れた中妹と犬を連れて夜通し走り続けるのも難しいように思われた二人には休む場所が必要だ 雷鳴が近づき雨はいよいよ本降りになてきた ︿ナイト・スカイ・ロ愉快に笑う月と星の看板はそんな中でもかなり目立つモ丨テルの名前の下にはかすれた文字でWi︱fi無料朝食付きと書いてあ昔であればカラ丨テレビ有りと掲げてあたのかもしれないモ丨テル自体はよくある二階建ての宿泊所である 車両を駐車場に止めたステイカ丨はエリフにここで待つように言彼女からは返事もなか一方ブレイクだけは元気よく吠えてくれた モ丨テルの受付に立つ中年の男は目を合わせたがらないステイカ丨をやや不審に思ていたようだが滞りなく手続きを進めた︱︱前払いで一泊70ドル子供とペトは無料だ︱︱彼は一階の部屋鍵をステイカ丨に渡したあと彼の次にやてきた客と話していたAirbnb民泊のような煩わしさがないのがモ丨テルの良い所なので好んで使う客は当然いる 部屋の前にGT︱Rを止めたステイカ丨はエリフより先に下りて中を確認したTVと電子レンジと冷蔵庫付きで奥にシワ丨ル丨ムがあるそれにクイ丨ンサイズのベドが一つ清掃済みの
紙が枕の近くに立てかけてある簡素でわりと清潔な場所だここがモ丨テルだからといて不審な点は何もないこれから事件が起こるんだろうと彼は車両の積み荷のことを思い返したドが一つしかないんだけど部屋に入るなりエリフがむとして言俺は寝ないからいい ステイカ丨は黒いナイロンバグを床に置いて中からペトボトルとシリコン製の皿を取り出した折りたたみ式のそれを組み立ぬるくなた水をそそぐとブレイクはいきおいよく皿に口をこんだ エリフはベドに倒れこむ明日は夜明け前にここを出る食事は 何が欲しい別に何もいらない エリフは寝返りをうて丸めた背中を彼に向けるハンガ丨ストライキであるあ俺も買いに行かない ステイカ丨はカ丨テンを引き窓際の安ぽいテ丨ブルと椅子を壁側に移動させたでもお前はそうはいかないよなブレイクと彼はシパ丨ドに目をやる腹ペコのブレイクは探るようにナイロンバグのにおいを嗅いでいたステイカ丨は食事を与えてやるブレイクは床に伏せた姿勢で前足で器用にそれをつかみ夢中になて噛みついているばりばりという咀嚼音が部屋に響いた 彼も一口噛みついてこれからの予定を考えたそうしている間窓の外では雨がしとしと降る音と誰かが話しながら通路を歩いて
いる音が聞こえたなに食べてるの いつの間にかエリフがじとと彼を見ている恨めしそうな顔に見えた ステイカ丨は口にくわえていたものを取りだし妹に見せる自家製の鳥のジ丨キ丨犬の食事に使ているが人間が食べても構わない エリフはさと手を出してきた 少量わけてやると彼女は不機嫌な顔をしながら噛みちぎてい味に文句はないらしいステイカ丨は自分の食べる量を手に取残りを全部妹にや ブレイクは腹がふくれて満足したのか入口のマトの上で丸くていた 椅子に腰かけたステイカ丨は壁に頭をもたせかけカ丨テンの隙間から外を眺める雨脚は弱か通り雨だろうこの様子ならすぐにでも車を走らせて適当な処分場所を見つけた方がいい荷は腐敗が始まているはずだそれを終えたら戻てエリフ起こしてモ丨テルを出る車はここまで持てくれたことだし後まで走り通せることを期待したいエンジンの音は悪くなか 物思いにふけている間エリフがずとこちらに視線を投げていることにステイカ丨は気づいていた受付でIDを見せたんでし ステイカ丨は首をわずかに動かし妹をちらと見るやまた窓の外に意識を向けたろくな反応を返さない彼に不安を覚えたのかエリフがまた聞いてくる
本当に何かに追われているのもう寝た方がいいよ 今度は一瞥も返さなか しばらくするとエリフがベドから起き上がる気配がした大きなため息とともに丨ス買てくる喉が渇いたから ステイカ丨が立ち上がると彼女は扉の前でと振り返ボデ丨ガ丨ドはいらないすぐ近くだよパ丨ド犬が首を起こしてエリフを見上げている私は六歳の子供じない 自動販売機は二十四時間対応の受付の隣にあるここから部屋が五つ分離れている 置かれている状況をはきり言えない以上十代の複雑な時期にある彼女を説き伏せることはそう簡単なことではない彼としても絶対に口を割らない気でいる 仕方なくステイカ丨はジ丨マン・シパ丨ドを視線で示した犬を連れていくんだこいつを見てエリフを襲おうと思うやつはいないよ 彼女は頷いてパ丨ドを呼んだおいでブレイク ブレイクがやおら立ち上がるエリフに近寄りフレンドリ丨な態度で尻尾を振 扉の錠を開ける妹に彼は念を押すたことがあればすぐに知らせろよ エリフそんなこと起こるはずないのにという顔をして出て行二人の足音が遠ざかていく ステイカ丨は黒いナイロンバグをテ丨ブルの上に置いてから
再度椅子に腰を下ろすグはあまりにサイズが大きすぎるためモ丨テルの簡素なテ丨ブルには半分も乗らない彼はナイロン生地の上に両手を組んで置いたそうしていると気分が落ち着いたかしな話だ︱︱都市部でこんな長物うぶつなど持て歩けるはずもないの 腕時計に視線を落とすその堅牢な製品は六年も彼に虐待されたせいでベルトを含めてあちこちが傷だらけだGT︱Rの鍵がテ丨ブルの隅で鈍く光ている エリフは兄のことを英雄までとはいわないものの母国に尽くした人間として多少なりとも誇りに思てくれている今や世界中を探してもそんな人間は妹ぐらいなものだだからこそステイカ丨が監視されている可能性など信じられない そう彼女は何も知らない何故自分に母親がいないのかさえ真実を知らされていないステイカ丨はそれを話すことをずと避けてきた 時計が五分経ステイカ丨は遅いなと思い始めた妹も自動販売機の飲み物ごときでそう悩む性格ではない椅子から立ち上がた時通路を早足で戻る音が聞こえたそれに動物の爪がコンクリ丨トを蹴る音も 顔を青くしたエリフが部屋に戻てきた何があ 彼女はつかつかとこちらに近寄るこれ︱︱これ見て ステイカ丨は目を疑エリフは手に軽量のラプトプを兄に突き出しているもちろん部屋を出る前に彼女はそんなもの
を持ていなか端末の隅に︿ナイト・スカイ・ロのお月さんマ丨クのステカ丨が貼てある画面には彼女がよく使ているソ丨シル・メデアサイトが表示されておりエリフしきアカウント名でログイン済みであなんてこと彼は表向きはあたふたしないが内心では大慌てである早く返してこいエリフが従業員をぶん殴てそれを強奪したのかは知らないが受付のあの位置なら間違いなくその瞬間が監視カメラに写ている自分が何をやたかわかてるのか受付に誰もいなかたもんと借りただけよとエリフ言い訳にならないと指紋を全部消して元の場所に戻すんだ しかし彼の妹は兄に似て大胆でしかも強情だ端末を胸元に押し付けてくるんと見て クスからDMダイレクト・メセ丨ジが届いてるミカエラに連絡を取ろうとしたらこれが来てたのあの野郎のことはブロクして忘れろよ昼間のシ丨ビズの片割れが何の用だというのか読んでてば 彼は目をしばたたきなんだてこんなことにという思いをありありにして首を振りプトプを受け取る そのメセ丨ジを読んでいるうちにステイカ丨の顔つきが変わる彼は自分で気がついていないが表情が少しずつ抜け落ちていくの 内容は端的に言クスからの危機を知らせるメセ丨ジ
 電話が繋がらなか怪我をしたの悪いやつらがいる襲われたリンジ丨が消えたお兄さんはいる 助けて願いします 受信時刻によればそのDMが届いたのは十分前だ混乱しているのか文章が要領を得ない てなんだ さすがの彼も一人でギングの集団など相手にできないこんなものを送てくるぐらいだなんとかしてもう自分で緊急電話番号911にかけた後だろうステイカ丨はエリフにラプトプを返したしてやれることは何もない もう彼の頭の中ではこのモ丨テルから離れてできるだけ遠くへ逃げることでいぱいになていた私たちの方が早く助けに行てあげられるかもと彼女は言うそんなはずはない邪魔になるだけだ だがなおもエリフは食い下がてきたでも怪我をしてる 動けないほど酷かたら︱︱俺になんの関係がある そう言てからしまたと彼は思た︱︱自分でも驚くほど冷ややかな声色だ エリフの両眼がふと暗くなるのをはきりと目にした彼女は細い両腕をだらりと下ろして気力を無くしてしまたようにその場で立ち尽くしたエリフに失望されたことを彼は理解していた口内に苦い味が広がてくる可哀想なエリフと明日の朝悲惨なニ丨スを知りしばらく塞ぎ込んでしまうだろう
がそれも時間が解決してくれるはずだ今まで何度もそうだ 荷物をまとめだしたステイカ丨に妹は一縷の望みを抱いたがすぐにそれが間違いだたことを知る車中泊に変えようルダ丨バグを渡した時にエリフがぽつりと言何のために軍に入てエリ丨トになたの ステイカ丨は動きを止めた一瞬だけ呼吸までやめていたような錯覚さえした エリフは続けるそうやて逃げ回るため とそんな人生なの家族からも逃げ出して ステイカ丨はゆくりとした動作で体を起こしエリフを見や彼は手のひらに嫌な汗をかいていた心拍数はわずかに上昇している 彼は妹と睨みあうエリフの目はもう失望しておらずむしろ決然としたものが湧きあがていたエリフが死ぬよりはいいステイカ丨私のせいにするな エリフはラプトプをベドに投げ捨てたそうしてテ丨ブルに置いてあたGT︱Rの鍵をひたく部屋を飛び出そうとする その手首が素早く掴まれた引き留められたエリフがステイカ丨を振り向く妹の頬は涙で濡れて光ていた ステイカ丨は真すぐと相手の目を見て言場所はどこ それを聞いたエリフ体当たりする勢いで彼の首に抱きつい
わがまま言てごめんと妹は小さくすすり泣いていた その背中を軽く叩いて行こうでもかかわるのはこれが最後だよ うんとエリフは涙を拭いて頷いた ステイカ丨は心の中でため息をはいていた︱︱ちくしそんな風に思われるのは我慢がならない白状すると妹の言葉にものすごい衝撃を受けていたクズだと言われるよりシクだた︱︱彼は腐ても軍人だ腰抜けよばわりはかなり堪えた それに放ておけばエリフは自分で現場まで乗りつけていくに違いない実際彼女はそうしようとした車がなければまた何か名案を思い付き実行するはずだ先ほどラプトプをきたように警察の厄介になることだて厭わないだろう ステイカ丨は黒いナイロンバグを担ぎエリフとブレイクを連れてモ丨テルの外に出る妹をここに置いていくわけにはいかなSNSにログインしなければそれも考えたのだが 雨が止み黒い雲が流れていく空は夕暮れと夜の境界上にとどまり薄昏い色に染まている遠くで街のシルエトがぼんやりと浮き上がていた かなり違和感があまず静かだと彼は思それから時計を確認した日没の時間はとうに過ぎている ステイカ丨はエリフに先に車に乗るよう促し自身はロビ丨へと急ぎ足で出向く彼女の言う通り誰もいなか無人の受付所で古びた天井フンが回ているだけだステイカ丨は返すものを返しその場をすぐに去
 どうにも静かすぎると彼は思モ丨テルからまるで人の気配がしない 車に戻る途中彼は通路で立ち止ま2番の部屋の扉が数センチ開いており中からテレビの音が漏れ聞こえているステイカ丨は数秒迷たがと表面を押した扉の隙間からシ丨ツがくしくしになたベドが目に入テ丨ブルの上ではコ丨ヒ丨が湯気を立てている上着も荷物も置きぱなしで奥の手洗い場では水が垂れ流されているテレビの画面が時々ノイズで歪みながら新車の宣伝をしていたどうもバスル丨ムは使われていないようだその扉が開け放たれたままだ 何故鍵がかかていないんだ この部屋の客はどこに行 それとも偶然なのか 他の客は 疑問がわきあがる中次第にステイカ丨は不快な気分になりはじめていた頭のてぺんからじりじりとするようなあの焦げつきを感じる なにか嫌な覚えがあ 彼は一歩引いてその部屋を過ぎようとしたその時だ三つ先の扉の前で黒い裾が床を引きずりするりと部屋の中に消えたような気がした正面から見たわけではない視界の隅にそう映ただけだ見間違いだと思扉は閉まているし閉まる音もしな 橙色の明かりが無人の通路を照らしている早く行こう エリフが車の窓から身を乗り出している急かされたステイカ丨は不気味なその部屋から静かに離れ車に乗り込んだ
  


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【2021/08/10 掲載】

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